広告表現ルール入門(薬機法 前編)

これだけは押さえておきたい! 健康食品の広告と薬機法

健康食品の広告で行き過ぎた効能効果をうたい、行政機関から指導を受けたり、行政処分が出されたりする企業が後を絶たない。企業側では「この程度なら大丈夫」と高を括り、判断ミスを犯すことも。そうした事態を回避するには、関連法規に対する理解を深めることが大切。薬機法(医薬品医療機器等法)による健康食品の広告規制について、前編・後編の2回に分けて解説する。

薬機法とは?

厚生労働省が所管する薬機法とは、どのような法律なのか。その目的をひと言で説明すると、「保健衛生の向上を図る」に尽きる。このため、医薬品・医薬部外品・化粧品などの品質、有効性、安全性の確保と、使用による危害の発生・拡大防止に必要な規制を設けている。

「医薬品や化粧品などを規制しているけど、健康食品はどうなの?」という疑問も出てきそうだが、「風邪を予防」「血糖値が下がる」といった医薬品的な効能効果を食品でうたうと、その食品は「無承認の医薬品」とみなされ、規制の対象となる。

たとえミネラルウォーターであっても、「血圧が低下する」と広告すると、もはや飲料ではなく、「無承認の医薬品」となる。そして、承認されていない医薬品の広告や販売は薬機法違反に問われる。

端的に言えば、医薬品の世界に一歩でも足を踏み入れると、容赦なく医薬品としてみなされ、薬機法の規制を受けるわけだ。

薬機法の違反者には厳罰が待ち受ける

健康食品の広告が薬機法に抵触するとどうなるか。行政指導でとどまる場合、速やかに広告を修正すれば大事に至らない。しかし、刑事事件になると、2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科せられる。

また、2021年8月1日から「措置命令」と「課徴金制度」が薬機法に導入され、健康食品の広告についても「措置命令」を出せるようになった。

措置命令の内容は以下の4点。

(1)違反広告を取りやめる

(2)違反した事実を一般消費者などへ周知する

(3)再発防止策を構築する

(4)違反行為を繰り返さない

医療機関を受診しないという懸念

本来、医薬品や医薬部外品などを対象とする薬機法が、健康食品の広告を厳しく取り締まる理由は何か。

その1つ目は、疾病への効果があると思わせる広告を信用してしまうと、疾病を持つ人が医療を受ける機会を逃し、病状を悪化させる恐れがあること。もう1つは、一般人が持つ医薬品と食品に対する概念が崩れ、医薬品の正しい使用が損なわれて、医薬品に対する不信感を生じさせること。こうした理由から、健康食品の行き過ぎた広告を規制している。

薬機法違反による逮捕

健康食品の販売会社は、薬機法の第24条1項の「医薬品の販売業の許可」や、第68条の「承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止」によって規制を受ける。

2023年11月に神奈川県警が発表した健康食品製造・販売会社の役員2人が逮捕された事件では、疾病に効くとうたって消費者へ販売したことに加え、事務所内に多数の商品を貯蔵していた疑いが持たれた。第24条1項の「医薬品の販売業の許可」では、薬局開設者または医薬品販売業の許可を受けた者でなければ、医薬品の販売や貯蔵などを行ってはならないと規定しているが、これに違反したという容疑だ。

「何人も」規制…あらゆる者が取り締まりの対象に

ただし、健康食品の広告については、第68条の「承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止」の違反に問われるケースが多い。

第68条では、医薬品・医療機器などについて「何人も~(略)~認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果または性能に関する広告をしてはならない」と規定。

「何人も」とは、言葉どおり世の中のあらゆる人を指し、販売会社やメーカーだけでなく、メディアや広告代理店、SNSで商品を宣伝するインフルエンサー、学者なども取り締まりの対象となる。

2020年に発生した健康食品の広告が薬機法違反に問われた事件では、第68条の「承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止」に違反したとして、広告代理店の関係者も逮捕された。

薬機法では、広告で医薬品的な効能効果をうたう健康食品を「無承認の医薬品」とみなし、第68条に違反すると判断される。その結果、厚労省が行政処分を出すか、または事例のように警察が動くことになる。

規制の対象外となる「明らか食品」

薬機法による健康食品の広告規制は、あたかも医薬品のような効能効果があると一般消費者に誤認を与えるケースをターゲットとしている。言い換えれば、一般消費者にそうした誤解を生じさせないケースは規制の対象外となる。

厚労省は通知「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」(いわゆる「46通知」)で、一般消費者が医薬品と間違うことがないと考えられる食品として、次の3つを挙げている。

(1)野菜・果物や調理品など、外観や形状から明瞭に食品と分かるもの

(2)特別用途食品(特定保健用食品<トクホ>を含む)

(3)機能性表示食品

トクホは国が許可した機能性の範囲内、機能性表示食品は届け出た機能性表示の範囲内ならば、効能効果を表示できる。これらは、商品パッケージに「特定保健用食品」や「機能性表示食品」と明記しているため、医薬品と誤認されるリスクが小さい。

野菜や果物、調理品といった食品についても、外観から医薬品でないと識別できるが、どのような効能効果をうたってもよいわけではない。野菜や果物であっても、「高血圧を改善」「ガン予防」「アトピーが治る」などと表示すると、「無承認の医薬品」とみなさることに注意しなければならない。

後編では、薬機法の通知などで定めている具体的なチェックポイントを解説する。

(後編へ続く)

【文責・木村祐作(堤半蔵門法律事務所顧問) 監修・堤世浩(堤半蔵門法律事務所代表弁護士)】