広告表現ルール入門(薬機法 後編)

前編で薬機法の目的、規制対象、違反者への罰則などを紹介した。後編では、健康食品の広告について薬機法上の具体的な注意点を解説する。

「広告の3要件」を正しく理解することが重要

薬機法による健康食品の広告の取り締まりは、どのような考え方で行われるのか。ここでは、販売会社が最も理解しておかなければならない第68条「承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止」の規定について見ていく。

薬機法に違反するかどうかは、2つのステージに分けて判断される。1つ目は、広告に該当するかどうか。

ここで言う広告とは、薬機法上の広告を意味する。広告かどうかは、「広告の3要件」によって判断される。

薬機法の「広告の3要件」とは以下の3点。

(1)顧客を誘引する意図が明確

(2)商品名が明らか

(3)一般人が認知できる状態

この3つの要件をすべて満たすと、薬機法の取り締まり対象となる広告と判断される。

企業間取引も規制を受ける

健康食品業界では、「広告の3要件」に対する誤解が蔓延している。広告で失敗しないためには、正しく理解することが重要だ。

「(1)顧客を誘引する意図が明確」の「顧客」は、一般消費者(購入者)だけでなく、すべての取引先なども含むことに留意してほしい。

「(2)商品名が明らか」の「商品名」は、商品だけでなく、商品に使用する原材料・成分も含む。これを間違って解釈し、原材料や成分の有効性ならば表示しても問題にならないと誤解している販売会社もあるが、失敗の原因となりかねない。

「(3)一般人が認知できる状態」の「一般人」は、すべての人を意味している。一般消費者(購入者)に限定して解釈してはならない。

世の中の広告・表示のほとんどは「広告の3要件」を満たしており、満たさないケースは純粋なニュース報道や学会発表などに限定される。企業間取引で行う宣伝も、業界向けセミナーの講演内容も、3要件を満たせば薬機法の広告に該当する。

広告内容に「医薬品的な要素」があるか否か

薬機法上の広告に該当した場合、次の段階では、広告の内容に「医薬品的な要素」が含まれているかどうかが問われる。

この両方を満たすと、薬機法による取り締まりが行われる。つまり、薬機法上の広告であって、医薬品のような効能効果や使用方法をうたった場合には、もはや食品ではなく、承認を受けていない医薬品とみなされるわけだ。

では、「医薬品的な要素」とは何か。医薬品的かどうかの判断には、いくつかのポイントがある。

まず、健康食品の原材料・成分が、食品に使用可能なものかどうか。医薬品にしか使用できない原材料・成分を用いた食品は、医薬品とみなされる(食薬区分制度の「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」を参照)。

口頭の説明も規制対象

第1関門の使用原材料・成分がクリアできたとしても、次の(1)~(3)のどれか1つでも該当すると、承認されていない医薬品とみなされる。

(1)医薬品的な効能効果を標ぼう

(2)専ら医薬品的な形状

(3)医薬品的な用法用量

健康食品の広告で最も多い失敗が、「(1)医薬品的な効能効果を標ぼう」。薬機法は、容器包装やチラシ・パンフレット、インターネット広告などで「医薬品的な効能効果」を表示することを禁止している。口頭での説明も規制の対象となる。

「医薬品的な効能効果」…間接的な表現も規制の対象

「(1)医薬品的な効能効果を標ぼう」の最たるものとして、「ガンが治る」「血圧が低下」「動脈硬化を防止」といった疾病の予防・治療に関する表現がある。こうした表示が禁止されることについては、論じるまでもないだろう。

また、「食欲増進」「疲労回復」「強壮」といった表現も該当する。これに加え、「アンチエイジング」「老化防止」なども同様で、これらは身体の組織機能の増強・増進を示唆し、健康食品の広告でうたうと薬機法に抵触する。

間接的・暗示的な表現も規制対象となるが、健康食品業界には間接的・暗示的な表現ならば許されると誤解している事業者も存在する。例えば、「海外では便秘治療に使用される〇〇という植物を原材料に使用」といった表示もNGとなる。

新聞記事や専門家の談話を引用して、「〇〇大学△△教授『✕✕という植物に含まれるポリフェノールには肥満を抑制する作用がある』」などと表示することも、「医薬品的な効能効果」に該当する。

食品の形状から判断

「(2)専ら医薬品的な形状」とはどのようなものか。薬機法では、「食品」であることが明瞭な場合、形状のみによって医薬品に該当するかどうかを判断しない。

しかし、「アンプル形状」「舌下錠」「液体噴射のスプレー管」といった形状の食品は、医薬品とみなされる。そうした形状は一般的でなく、医薬品であるかのような誤解を与えるからだ。

用法用量の表示からも判断

「(3)医薬品的な用法用量」の表示によっても、「医薬品的な要素」の有無が判断される。

「食前」「食後」といった服用時期、「1日3回」などの服用間隔、「1回3錠」などの服用量の表示は「医薬品的な用法用量」とみなさる。

健康食品の場合、「1日あたりの摂取目安量」の表示が基本となる。例外として、栄養機能食品(ビタミン・ミネラルなど)については、時期・間隔・量などの摂取方法を表示しても原則規制を受けないが、この場合であっても「食前」「食後」といった表示は許されない。

まとめ

健康食品の販売会社では「この表現は大丈夫か?」という点に気が取られがちだが、広告に用いる用語・表現だけに注意してもあまり意味がない。というのも、取り締まりの際には広告全体で判断されるからだ。

小手先の対応では薬機法を順守することは困難と言える。このため、法の目的を理解し、医薬品の世界に踏み込まないという意識を社内に浸透させることが重要となる。

(終わり)

【文責・木村祐作(堤半蔵門法律事務所顧問) 監修・堤世浩(堤半蔵門法律事務所代表弁護士)】