代表的な景品表示法違反事件(第2回)~初めて機能性表示食品の科学的根拠にメス
消費者庁は2023年6月30日、通販会社A社に対し、景品表示法に違反したとして、再発防止策などを求める措置命令を出した。違反の認定は、A社が販売した機能性表示食品(2製品)の表示に対して行われ、機能性表示を裏づける科学的根拠にメスが入った初のケースとなった。さらに、A社と同じ科学的根拠を使用していた他社の機能性表示食品88製品でも疑義が生じ、機能性表示食品制度の信頼性を揺るがす事態に発展した。
業界は蜂の巣をつついたような騒動に
A社は機能性表示食品の2製品について、自社ウェブサイト、同梱冊子、容器包装で「中性脂肪を低下させる機能」とうたっていた。そのうちの1製品では、これに加え、「血圧が高めの方の血圧を下げる機能」「血中のLDLコレステロールの酸化を抑制」も標ぼうしていた。
本来、機能性表示食品の場合、そうした機能性表示をうたうことができる。消費者庁へ届け出た表示の範囲内ならば、景表法上で問題になることもない。
一方、届け出た科学的根拠が不適切だと、届出が受理されなかったり、届出の撤回を促されたりする。2015年4月の制度スタート以来、これらの対応が取られてきた。
そうした状況の中、A社の事件は、機能性に関する科学的根拠が合理的なものではないと認定され、景表法違反に問われた初のケースとなった。関係業界では、届出資料に疑義が出れば、最悪でも届出を撤回すれば済むと考えられてきただけに、蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。
試験と製品の内容が不一致
A社は、販売製品の機能性を評価するために、研究レビュー(システマティックレビュー)と呼ばれる手法を用いていた。研究レビューとは、国内外の関連する研究論文を収集し、機能性の有無を総合的に評価する手法。一般的に、原料メーカーなどが自社原料の機能性に関する研究レビューを作成し、取引先となる通販会社などへ提供している。現在のところ、全届出件数の約95%を研究レビューによる届出が占める。
では、A社が使用した研究レビューは、どのような点が問題視されたのだろうか。前述した3つの機能性のうち、まず「中性脂肪を低下させる機能」から見ていく。
「中性脂肪を低下させる機能」はDHA・EPAによるものだが、次の2つの点が問題となった。
(1)研究レビューに用いた研究論文の試験デザインを見ると、販売する製品の1日摂取目安量の2倍ほどのDHA・EPAを含むケースが多かった(つまり、販売する製品の成分含有量は、試験に用いた食品の成分含有量を大幅に下回っていた)。
(2)販売する製品の1日摂取目安量より少ない成分量でも効果が認められたとする論文が1部あったが、その量では効果が認められないという論文もあり、総合的な評価として不適切だった。
次に、「血圧が高めの方の血圧を下げる機能」については、機能性関与成分としてモノグルコシルヘスペリジンを配合していた。
しかし、研究レビューに用いた3報の論文は、一般的な醤油を減塩醤油に置き換えた減塩効果を前提として、減塩醤油とモノグルコシルヘスペリジンを併用した場合のデータだった。本来ならば、減塩効果を加味することが必要で、届出資料についてはサプリメント単独の効果とは認められなかった。
3つ目の「血中のLDLコレステロールの酸化を抑制」は、オリーブ由来ヒドロキシチロソールによるもの。
消費者庁によると、A社から、被験者群と非被験者群のLDLコレステロールの酸化抑制の有意差を比較したデータが提出されたが、評価方法(有意差検定の方法)が適切でなく、製品の機能性を客観的に証明するものではなかったという。
他社の88製品が市場から姿を消す
A社の事件は、他社の機能性表示食品にも深刻な影響を与えた。
A社は原料メーカーなどが作成した研究レビューによって届出を行ったが、研究レビューそのものが、機能性表示を裏づける合理的な根拠として認められなかった。このため、A社と同じ研究レビューを用いて届出を行った他社の88製品についても、同様の疑義が生じた。
2025年2月末時点で、88製品のすべてで届出の撤回を申し出ている。そのうちの80製品については、撤回届出を提出済み(提出すると機能性を表示できなくなる)。
残りの8製品も既に販売しておらず、疑義が生じた88製品すべてが市場から姿を消すという、前代未聞の景表法違反事件となった。
(了)
【文責・木村祐作(堤半蔵門法律事務所顧問) 監修・堤世浩(堤半蔵門法律事務所代表弁護士)】