相次ぐ定期購入めぐる特商法違反

健康食品や化粧品などのインターネット通販で「お試し」「トライアル」といった表示を見て、1回限りと思って注文したところ、実際には複数回の購入が条件の定期購入契約だったという消費者トラブルが後を絶たない。特定商取引法を所管する消費者庁は2024年度に、通販会社の取り締まりに注力した。違反事例を通して、定期購入契約の解約方法を複雑・煩雑にして、解約を妨害しようとする手口が浮かび上がった。

複雑・煩雑な解約方法

2024年度の特商法違反事例の中から、手の込んだ解約方法が特徴の2件の事例を見ていく。

1つ目は、消費者庁が2024年10月4日に公表したA社の事例(3カ月間の業務停止命令と、代表者に対する3カ月間の業務禁止命令)。

A社は、美容クリームをネット通販で販売する際に、「塗ると速攻顔中のシワが完全に消えた!」などとうたう誇大広告と、申し込み最終確認画面の定期購入契約に関する表示が不適切だったことが特商法違反に問われた。

そのうち定期購入契約については、申し込み最終確認画面に解約方法を表示していなかったことが問題となった。しかも、解約方法はかなり複雑・煩雑な内容だった。

解約方法の流れは次のとおり。解約を希望する場合、まず次回の配送予定日の15日前までに問い合わせ窓口に電話をかける。次に、SMSにより送信されたURLにアクセスし、申し込み時には設定しなかったパスワードの入力を求められ、パスワード設定の手続きを実施後、前述のURLに戻ってパスワードを入力する。解約理由を選択し、「コースを解約する」と表示されたボタンをクリックして、名前、電話番号、住所などを入力して送信しなければならなかった。

解約条件・方法の一部のみ表示

2つ目は、消費者庁が2024年10月17日に公表したB社の事例(9カ月間の業務停止命令と、代表者に対する9カ月間の業務禁止命令)。

B社は、ネット通販で美容液を販売する際に、「どんな人でも3日でシミが消える」などの誇大広告と、申し込み最終確認画面に定期購入契約の解約条件・方法の一部しか表示していなかったことが、特商法違反に問われた。

チャットボットページ上の申し込み最終確認画面には、解約条件・方法について「次回出荷準備予定日の10日前までにマイページ・お問い合わせフォーム・メール・LINE・電話よりご連絡ください」、「休止・停止を行うためにはポイントを〇〇モールにて全てお使いいただき、残がないようにしていただく必要がございます」などとのみ記載していた。

一方、(1)解約の連絡をする際の電話番号、(2)「ご利用規約」ページには異なる解約条件を課していること、(3)電話による解約を希望する場合、自動音声で案内される別の電話番号にかけ直し、解約の仮受付を行い、同社の確認を受けてメールを待つという手続きが生じることがあること、(4)ポイント消滅請求を行うためには、解約方法の案内ページを開き、スクロールしてリンクを見つけて請求するか、同社に連絡を取ってポイント消滅のURLを送信させた上でポイント消滅画面に入ること――などを明記していなかった。

消費者庁によると、PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)に登録された同社に関する消費者相談は8000件を超えるという。

定期購入契約の解約をめぐっては、従来から「電話がつながらない」、「嘘の説明によって解約を妨害された」といった苦情が後を絶たない。これに加え、複雑・煩雑な解約方法を目立たない場所に表示するという手口も目立つようになっている。

見えない法改正の効果

悪質な定期購入商法による消費者被害を防止するため、特商法が改正され、2022年6月1日に施行された。

法改正により、申し込み書面やネット通販の申し込み最終確認画面に、一定事項の表示を義務づけた。具体的には、「分量」「販売価格」「支払い時期・方法」「引き渡し時期」「申し込み期間(申し込み期間を設定している場合)」「申し込みの撤回・解除に関する事項」の6項目の表示が必須となる。

前述した2件の事例も、法改正で新たに設けた規制に基づいて行政処分を受けた。しかし、改正後も悪質な定期購入商法による消費者トラブルは高水準で推移している。今のところ、法改正の効果は目に見える形で表れていないようだ。

(了)

【文責・木村祐作(堤半蔵門法律事務所顧問) 監修・堤世浩(堤半蔵門法律事務所代表弁護士)】