特別用途食品「経口補水液」制度の施行

従来、「経口補水液」とうたったスポーツ飲料などが販売されてきたが、2025年6月1日から、国の許可を得ずに「経口補水液」と表示することが禁止となった。無許可で「経口補水液」と表示すると、健康増進法違反に問われる。

無許可の商品に潜むリスク

これまで無許可で容器包装に「経口補水液」と表示したスポーツ飲料などが販売されてきた。水に溶けると電気を通す電解質を多く含むことから、広告で「熱中症対策」「脱水症状に」などとアピールしていた。

しかし、無許可の商品は深刻な問題を抱えていた。熱中症や脱水症状に適切に対応するためには、必要な量のナトリウムやカリウムなどが正確に配合されていることが求められる。また、それぞれの成分の配合割合、浸透圧が適切に設定されていることも条件となる。これらが不適切な場合には症状を改善できず、悪化させる可能性もある。

このほかにも、健康上の問題が指摘されていた。無許可の「経口補水液」と表示された飲料は、ジュースやサイダー、コーヒー飲料などと並べて販売され、一般的な飲料と同様に、日常的に利用される傾向にあった。

前述したとおり、無許可の商品であっても、ナトリウムやカリウムなどの電解質が一般的な商品よりも多く含まれるため、日常的に摂取すると、電解質の過剰摂取につながる。特にナトリウムやカリウムの摂取を控えるように、医師から指導されている人にとっては深刻な問題となる。

特別用途食品制度を改正

無許可の「経口補水液」と表示した商品が野放しとなっている問題を受けて、消費者庁は2023年5月19日、特別用途食品制度の許可基準型病者用食品の1つとして、「経口補水液」を追加した。

許可を得るための基準は、100mlあたりにナトリウム92~138mg、カリウム59~98mg、塩素106~212mg、ブドウ糖1.00~2.60gを配合。ナトリウムとブドウ糖の比率は1:1~1:3.5、浸透圧は300mOsm/L以下としている。

国の許可を得た商品には、「感染性胃腸炎による下痢・嘔吐の脱水状態に適する」旨を表示できるようにした。同時に、「医師からナトリウムまたはカリウム摂取量の制限を指示された場合は、必ず医師の相談または指導を得て使用」という注意喚起表示も義務づけた。

一方、制度改正に伴って、国の許可を得ていない商品に「経口補水液」と表示することを禁止した。経過措置期間が切れた2025年6月1日以降、無許可の商品は取り締まり(健康増進法違反)の対象となっている。

「熱中症対策」の訴求は個別評価型病者用食品で対応

今回の改正で、特別用途食品制度の許可基準型病者用食品として「経口補水液」が加わったが、同制度には、個別評価型病者用食品の「経口補水液」もあり、こちらは改正以前から運用されている。

個別評価型病者用食品の「経口補水液」については、事業者が予定(希望)している表示内容を申請することが可能。これまでに複数の事業者が、「軽度から中等度の熱中症の方の水分・電解質を補給・維持するのに適している」旨や「過度の発汗による脱水状態に適している」旨の表示が許可されている。

つまり、許可基準型病者用食品の「経口補水液」として許可されれば、「感染性胃腸炎による下痢・嘔吐の脱水状態に適する」旨を表示できるが、「熱中症対策」を訴求する場合には個別評価型病者用食品の「経口補水液」として許可されることが必要となる。

販売方法もルール化

許可を得た「経口補水液」については、適切な販売方法も求められる。消費者が一般的な飲料と間違って購入しないようにするためだ。

リアル店舗(主にドラッグストアなど)で販売する場合、薬剤師や管理栄養士などが、「経口補水液」の利用について医師から指示されているかどうかを購入者に確認する。これとともに、店舗内では、一般的な飲料と明確に区別して陳列することが求められる。

インターネット通販の場合には、確認欄を設けて、購入者が「医師から指示された場合にお飲みください」や「医師からナトリウムまたはカリウム摂取量の制限を指示された場合は、医師の相談・指導を得て使用してください」といった質問事項にチェックを入れながら、申し込み画面へ進むという仕組みを導入する。
(了)

【文責・木村祐作(堤半蔵門法律事務所顧問) 監修・堤世浩(堤半蔵門法律事務所代表弁護士)】