将来の販売価格を比較対照に用いた二重価格表示
セール終了後の販売計画の有無
消費者庁は2025年9月12日、テレビショッピング通販やインターネット通販を行うA社に対し、景品表示法に基づく措置命令を出した。通販サイトでおせち商品を販売した際に、景表法で禁止する有利誤認表示を行ったと認定した。
消費者庁は2020年12月25日に「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」を公表。それ以降に、将来の販売価格を用いた二重価格表示が違法に問われたのは、今回が初めて。
同社は通販サイトで、「通常価格29,980円が1万円値引き 7/22~11/23 値引き後価格19,980円(税込) ~大人気おせちが今ならお得!~早期予約キャンペーン」と表示していた。
消費者庁では、比較対象に用いた「通常価格29,980円」はセール終了後に適用される販売価格であり、セール期間中は同価格から1万円値引きして提供すると広告したと判断。それにもかかわらず、セール終了後に「通常価格29,980円」によって確実に販売する計画はなかったと認定した。
つまり、「通常価格29,980円」は将来の販売価格として十分に根拠のあるものと認められなかった。
例外となる<特段の事情>とは?
「執行方針」によると、<特段の事情>もなく、将来の販売価格で販売しなかった場合は確実に実施される販売計画がなかったと推認され、有利誤認表示に該当する。例えば、次のようなケースだ。
・セール終了後に販売していない。
・セール終了後に将来の販売価格と異なる価格で販売している。
・セール終了後に将来の販売価格で販売したが、ごく短期間だった。
ここでいう<特段の事情>とは何か。具体的には、地震・台風・水害などの天変地異、感染症の流行などによって店舗が損壊したり、流通網が寸断されたりすることなど。事業者の責任でない不可抗力を原因とする場合などを指す。例えば、次のようなケースがある。
・酒店で「赤ワイン 来月1日から7,800円の品 現在セール中にて5,800円」と表示したが、地震が発生して店舗が損壊し、セール終了後に販売できなかった。
・ホームセンターで「ペットボトル水12本入り セールで1,200円 来月1日から2,000円」と表示したが、台風による水害で交通路が寸断され、商品の仕入れができなくなり、セール終了後に販売できなかった。
・食料品店で「チーズ 明日18日から200円の品 本日17日限り150円」と表示したが、18日の営業開始前に冷蔵庫が故障したため、チーズが傷んで廃棄するのを避けるために、18日に50円で販売した。
これに対して、予見できないとは言えない場合、そのリスクも踏まえて将来の販売価格を用いた二重価格表示を行うかどうか判断すべきとしている。問題となり得る例に、次のようなものがある。
・消費者からセール継続を求められ、セール期間を延長した。
・エアコンのセール開始後、気温が上昇して需要増となり、在庫がなくなったが、追加仕入れを行わず、セール終了後に販売しなかった。
・セール開始後に他社が値下げしたため、これに対抗するためにセールを継続した。
さらに「執行方針」では、<特段の事情>もなく、ごく短期間しか比較対照に用いた将来の販売価格で販売しなかった場合は、確実に実施される販売計画がなかったと推認されると指摘。一般的に、セール終了後に直ちに将来の販売価格で販売を開始し、2週間以上継続した場合はごく短期間とは考えないとしている。
A社は反論、審査請求を提出
話をA社の行政処分に戻す。A社は今回の措置命令に対し、真っ向から反論。自社のホームページ上で、表示が有利誤認に該当しないと主張している。
その理由として、消費者庁ガイドラインでは「過去に販売した価格」を比較対照に用いることが認められていて、セールの直前まで「通常価格29,980円」で販売していたことを挙げる。これに加え、2022年と23年にはセール終了後に通常価格で販売したことと、24年も同様の販売計画だったが、期間内に完売した時点で販売を終了したことなどを踏まえ、有利誤認表示に該当しないと反論している。
ここまで見てきたように、消費者庁は「将来の販売価格」を念頭に行政処分を行った一方で、A社は「過去の販売価格」を基に反論するなど、双方の観点が食い違っているようだ。
A社は2025年9月25日に、消費者庁に対して行政不服審査法に基づく審査請求を提出し、争う構えを見せている。
(了)
【文責・木村祐作(堤半蔵門法律事務所顧問) 監修・堤世浩(堤半蔵門法律事務所代表弁護士)】
