台湾の戸籍事情
日本の出入国在留管理庁が去年10月中旬に発表した資料によりますと、令和6年6月末の在留外国人数は358万余りと過去最高を更新しており、台湾人も67,277人に増えました。私にも度々「日本国内で亡くなった台湾人の方の相続人調査をしていただける方を探しているのですが」という相談が来ておりましたので、本稿では台湾における戸籍事情等を共有しようと思います。
植民地時代(1895年~1945年)の戸籍調査から国民身分証統一番号の配りまで
1905年、台湾総督府(植民地時代に設置された日本の出先官庁)は台湾歴史上初の人口調査をし、調査結果に基づき、当時の日本の戸籍制度を参考にして、台湾に住む個人及び家族の戸籍簿を編纂しました。1945年に中華民国政府になり、人口管理のため、間もなく全国各地で戸籍調査をしました。1947年、18歳以上の国民に身分証明書が発行されました。1965年4月からは、台湾戸籍を有する人に「国民身分証統一番号」という英語一文字と9桁の数字で構成される識別用番号が配られました(日本のマイナンバーと同様、台湾の国民証統一番号は特段の事情がない限り変えられません)。1997年10月からは、全国の戸籍データが電子化され、各地の戸籍機関(正確には「戸政事務所」といいます)で遡って植民地時代までの戸籍謄本も請求可能となりました。
今の国民身分証と戸籍資料管理
今台湾で使われている2005年式の六代目国民身分証は、表面には顔写真、氏名、性別、国民身分証統一番号、発行日が載っており、裏面には住所、両親と配偶者の名前、出身地、住所等個人情報が載っております。上記情報変わっていない限り、わざわざ国民身分証を更新しようとする人はほぼいません。
また、戸籍謄本には、氏名、続柄、生年月日、出生別、配偶者と両親の名前、出身地が必ず載っています。このほかに、個人の住所変更記録、婚姻記録、改名有無、子女の氏名と生年月日等の情報も戸籍謄本の記事欄に載っています。ただ、戸籍法の所管官庁である内政部が「戸籍謄本の記載に関する注意事項」(戸籍登記記事登載注意事項)を制定したのは1993年であり、その以前は戸籍謄本の記事欄の記載内容に関する基準がなかったので、婚姻記録と子女の氏名等の情報が載っていない場合もあります。そのため、相続人を確認するために、日本のように被相続人の出生から死亡までの戸籍を取り、それを見て相続人の有無を調べる、という方法はとれません。ここが日本における相続人調査との大きな違いといえます。
台湾における相続人の調査方法について
亡くなった台湾人の相続人をどうやって調べるかというと、①被相続人の死亡証明書、②利害関係を証明できる資料(例えば請求人が相続人であるという証明書)などを用意して、台湾各地戸籍機関の窓口に相続人を調べたい旨申し出る方法によります。もし相続人がいれば、その場で相続人の戸籍謄本を交付してくれます。相続人がいなければ、直ちに「相続人がいません」と口頭で回答されるのが普通ですが、書面で請求した場合には、「相続人不存在」という回答書を提供してくれます。
もっとも、誰でも請求できるわけではなく、請求することができるのは被相続人の利害関係者に限られています(利害関係者が他の方に請求を委ねることもできます)。なお、台湾における戸籍謄本等の交付請求においては、日本の戸籍法のような弁護士等専門職の職務上調査に関する特別なルールなどはありません。
また、このほかに注意すべき点としては、日本で作成した死亡証明書等の書類は、台湾の戸籍機関に提出する前に、台北駐日経済文化代表処(https://www.roc-taiwan.org/jp_ja/index.html。台湾大使館に相当)で認証してもらわないといけないことや、台湾の戸籍機関が作成した回答書を日本で使う予定があれば、日本台湾交流協会( https://www.koryu.or.jp/。日本大使館に相当)に認証してもらう必要があることなどが挙げられます。
【文責・林香均(台湾律師)】