取引相手の信用調査
信用調査とは
新規の相手と取引を始めるにあたり、相手の信用は重要な判断材料の1つになります。特に金額規模の大きな取引を行う場合はなおさらです。オフィス、パンフレット、名刺、ホームページ、企画書がいくら立派でも、それだけで信用してしまうと、あとで手痛い目に遭うおそれがあります。そこで、本稿では、取引相手の信用をいかにして調べ、それを踏まえていかに対応するかについて述べたいと思います。
信用調査の主な手法
信用調査というと、帝国データバンクのような調査会社にお金を払って実施するイメージなどおありかもしれません。もちろん取引規模によってはそのような場合もあるでしょうが、そこまでせずとも、容易かつ安価に手に入るデータによっても相手の信用情報をある程度読み取ることは可能です。以下代表的なものを見ていきます。
①ウェブ検索
ウェブで相手の口コミなどを調べることは、今では必須といえます。顧客の口コミだけでなく、転職支援サイト等における従業員の口コミも有用な場合があります。ただ、ウェブ上の情報は虚実入り乱れておりますので、あくまで参考程度に留めるのがよいでしょう。
②法人登記情報
法人登記情報には、会社の本店所在地、成立年月日、目的、資本金、発行株式数、役員など会社の基本情報が記載されております。「登記情報提供サービス」(https://www1.touki.or.jp/)というウェブサイト上で手に入りますので、入手が容易であるほか、料金も1通あたり300円程度と安いです。法人登記情報は信用情報の宝庫です。
たとえば、会社名が頻繁に変わっているとか、役員が頻繁に変わっているという場合には要注意です。会社名が頻繁に変わっていたら、怪しい商売をして摘発されそうになると会社名を変えて逃げるということを繰り返しているのではないかという疑義が生じます。また、役員が頻繁に変わっている場合には、お家騒動などが起きていて社内はまともに回っていないかもしません。
役員が皆同じ苗字という場合には、同族会社である可能性が高く、代表取締役によるワンマン経営である可能性が高いです。そのため、代表取締役の能力・人柄・健康状態の見極めが特に重要になります。なお、詳細は割愛しますが、ある方法により、その役員が他社の役員も兼任しているかも調査が可能であり、役員兼任先の会社の法人登記情報からさらに信用情報を得られる場合もあります。
役員として登記されていないのに、役員の肩書の名刺を使っている従業員がいるという場合も要注意です。そのような詐称を容認・黙認している時点でかなり怪しい会社です。
本店所在地がいわゆるバーチャルオフィスである場合、それだけで直ちに問題があるというわけではありませんが、バーチャルオフィスは簡単に移転・閉鎖できてしまうため、相対的にみて「逃げやすい」という側面はあるかもしれません。逆に、資本金額や設立年数からしてあまりに豪華すぎるビルにオフィスを構えているという場合もまた、堅実経営という観点からすれば注意が必要です。
また、法人登記情報には代表取締役の住所も載っていますが、その土地・建物の不動産登記情報を取得することによっても信用情報が分かる場合があります(詳細は③へ)。
③不動産登記情報
不動産登記情報には、不動産の所在地、面積、所有者、抵当権の有無などが記載されております。これも前記「登記情報提供サービス」で1通300円程度で手に入ります。不動産登記情報からも信用情報を手に入れられる場合があります。
たとえば、相手の本店所在地の土地・建物の不動産登記情報を入手することにより、その土地・建物が相手の所有物件か賃借物件かが分かります。所有物件である場合において、多く抵当権が設定されていたり、自治体等による差押や債権者による仮差押などがなされている場合には、その信用は慎重に判断しないといけないでしょう。これらのことは、代表取締役の住所の土地・建物についても同様にあてはまります。
なお、詳細は割愛しますが、会社や役員が他にも不動産を保有しているかを調べる方法もありますので、そこからも更に信用情報が得られる場合があります。
④民間の判例検索サービス
判例検索サービスを自社で契約しているという方はあまりいらっしゃらないと思いますので、弁護士に頼むことになるかもしれませんが、民間の判例検索サービスにおける「キーワード検索」で相手の社名がヒットする場合があります。過去にどのような裁判の当事者になったかが分かれば、信用を判断する有力な材料の一つとなるでしょう。
対応指針
信用調査の代表的な手法をご説明しましたが、調査をしても黒か白か分からないというケースもあると思います。もし信用状態がグレーのままで取引を始める場合には、次のようなリスク軽減措置も検討なさるとよいでしょう。
・金額規模の少ない取引から始める
・代金の全部又は一部を先払いにする
・保証人をつけてもらう
・取引開始前に決算書を開示してもらう 等々
また、取引開始当初は信用状態に問題がなかったとしても、取引を継続する途中で信用状態が悪化することもあります。支払を滞りがちになる、有力社員・経理社員が退社する、オフィスの清掃が行き届かなくなる、社長に日中電話が繋がりにくくなるなど兆候は色々ありますが、そのようなときも最新の法人登記情報を取ってチェックすると有用な情報を得られるかもしれません。
最後に、滞納が現実に起きてしまい、催促しても支払われない場合の対応について。このような場合、取引相手の預金を差し押えたいとお考えになるかもしれませんが、相手の預金口座の所在や残高などは普通分かりません。そのため、調査会社等に預金調査を依頼するという選択肢もありうるかもしれませんが、その場合には取引相手の代表取締役の生年月日と氏名の読み仮名が必要になることがあるので、事前にこれらの情報を取引開始時に取引相手に申告させるような運用の導入を検討してみてもよいかもしれません。
【文責・堤世浩(堤半蔵門法律事務所代表弁護士)】