内部統制の構築から株式上場(IPO)へ

1 内部統制構築の重要性

 内部統制とは、「組織の業務の適正を確保するための体制を構築していくシステムを指す。すなわち、組織がその目的を有効・効率的かつ適正に達成するために、その組織の内部において適用されるルールや業務プロセスを整備し運用すること、ないしその結果確立されたシステムをいう」と定義されます。

企業経営者の方や現場担当者の方の中には、「内部統制は付加価値を生まず、ましてやビジネススピードの障害とコストにしかならない」とお考えの方が多いように思います。

 例えば企業を車と捉えると、売上を伸ばす行為はアクセル、内部統制は安全に運転するためのブレーキと考えられます。

 当然、スーパーエンジンを搭載しスピードばかりを追求しても、コーナーを上手く曲がり切らなければ大事故に繋がりますので、ブレーキを上手く駆使しながら運転することが重要となります。

 いったん、粉飾決算、大きな横領事件、ハラスメント問題等の事象が発生すると会社のブランド価値の棄損、従業員の事後処理対応時間、はたまた従業員の流出等、リカバリーコストのほうが、内部統制対応コストよりもよほど高くついてしまいます。

2 内部統制構築による適正な数値の可視化

 上記1で「重要性は理解できるものの、やはり業績上昇に繋がらないとね。。。」とお考えの企業経営者の方や現場担当者の方もいらっしゃると思います。

 内部統制構築によりルールを明確に定め、適切な財務諸表が作成されると売上・利益数値が精緻化され、結果として業績上昇に繋がる一助となります。

 例えば、①明確な売上計上ルールに従い、会計伝票起票者とチェックする者の牽制体制を構築する、②出金の際に振込実行データを作成する者とデータをチェックし実行する者の牽制体制を構築するといった統制行為を設けることで数値が精緻化されていき、また資金の横領を防止することが可能となります。

 適正な数値が可視化されていくことで、企業経営者の方は現状に即した正しい意思決定が可能となり、また現場従業員の方も正しい処理を実施している自負と不正事象が起こりにくい環境で安心して業務に携わることが可能となります。

3 内部統制構築による業績向上から株式上場(IPO)へ

 株式上場(IPO)するには、監査法人から2決算期の監査証明と主幹事証券会社からの推薦が必要であり、日本取引所グループ(JPX)の審査にパスすることで晴れてパブリックカンパニーとります。

 内部統制が構築され、業績が向上しIPOを目指す際に次に手を付けるべき主な事項は、会計基準の整備と人事労務環境の整備となります。

  • 会計基準の整備

IPO前の企業では税法に従った会計処理(所謂税務会計)から企業外部の利害関係者に対し、企業の財政状態・経営成績等の情報提供を行う会計処理(所謂財務会計)にシフトする必要があります。

  • 人事労務環境の整備
  • の会計基準の整備は監査法人の指摘を受けながら進めていくことになりますが、

人事労務の整備もIPO上の重要な課題となります。

 労働時間管理の曖昧さにより未払残業代の解消はIPOを進めていく過程で初期に対処

すべき課題となりますし、ハラスメント防止も重要な課題となります。

 人事労務環境は主幹事証券会社及びJPXの上場審査上、重要な項目となっています。

IPO前後の人事労務管理において、人事担当者の方は、人事業務の中で何に注力し、新たに必要となる業務や部門についてメルクマールとなる文献が少ない中で、法律の専門家やIPOコンサルタント等の支援を受けつつ対応していくケースが多いと思います。

4 最後に

 内部統制構築は、IPOを目指さずとも非常に重要な行為となります。

 内部統制構築により業績が向上し、IPOを目指せるほどの強い組織となれるといった思考が本稿を読了された方々に少しでも伝われば幸いです。

【文責・新井優介(公認会計士/堤半蔵門法律事務所顧問) 監修・堤世浩(堤半蔵門法律事務所代表弁護士)】