代表的な景品表示法違反事件(第1回)~「葛の花」機能性表示食品の痩身効果

これまでの景品表示法に基づく行政処分を振り返ると、エポック的な事件と言えるものがある。機能性表示食品の広告で初の違反事件もその1つ。この事件を機に、機能性表示食品の広告を行う場合、届出資料の範囲内に表示内容を収めることが、法令を順守する上で極めて重要であると認識されたようだ。

16社を一斉に行政処分

消費者庁は2017年11月7日、「葛の花由来イソフラボン」を機能性関与成分とする機能性表示食品の広告で、事実と異なる大げさな痩身効果をうたったとして、販売会社16社(19商品)に対し、景表法に基づく措置命令を出した。この事件は、機能性表示食品で初の違反事例となり、また、16社を一斉に処分したこともあり、大きな話題を呼んだ。

当時、健康食品業界では、有効性をうたうことができる機能性表示食品の場合、景表法によって行政処分を受けることはないという誤解が広がっていた。このため、措置命令の発表は業界にショックを与えた。行政処分に対し、不満を漏らす事業者も多かった。

実は、消費者庁が発表する半年ほど前から、“異変”が生じていた。というのも、機能性表示食品の販売会社が次々と、全国紙の広告欄と自社ホームページに「お詫び」を掲載していたからだ。少なくとも10社以上が、措置命令が出る前に「お詫び」を表明していた。

試験結果は体重1kg減なのに…

16社に共通していたのは、商品を摂取するだけで、誰でも容易に著しい痩身効果を得られるとうたっていたこと。内臓脂肪や皮下脂肪の減少によって、見た目でわかるほど腹部の痩身効果が得られるかのように表示していた。例えば、太ってしまってズボンが履けなくなった人に商品を勧める広告や、使用前後で腹回りが細くなったことを示す写真を用いた広告などがあった。

しかし、各社が消費者庁に届け出た有効性の科学的根拠は、「食事からのカロリー摂取量を抑制」「12週間平均で1日に約8,000~9,000歩の運動(通常よりも約2,000歩多い)」「BMIが25~30の人」を前提条件としていた。つまり、運動や食事制限を行わなくても、期待される効果が得られる商品ではなかった。

さらに、試験の結果は体重が約1kg、ウエストが約1cm低減するという内容だった。これは、通常の生活のなかで変動する範囲であり、見た目でわかるほどの効果ではなかった。

消費者庁は調査を行った当時、対象となる届出が45件に上ることを確認していたが、そのうち違反が認定されたのは16社・19商品だった。

特定適格消費者団体による返金申し入れも

その後、消費者庁は2018年1月19日、9社に対し、課徴金納付命令を出した。課徴金額は9社の合計で1億1,088万円に上り、1社あたりの最高額は4,893万円だった。残り7社については、不当表示を行っていた期間の対象商品の売上高が5,000万円以下など、課徴金の要件に合致しなかったとみられる。

行政処分はこれで一段落となったが、この事件には続きがあった。特定適格消費者団体の消費者支援機構関西は2018年3月9日、措置命令を受けた16社に対し、購入者への返金に応じるよう申し入れた。その後、消費者支援機構関西は、12社から返金状況の報告を受けたことを明らかにしている。

この事件を機に、届け出た表示内容を逸脱して宣伝すると行政処分の対象となることについて、業界関係者の認識は深まった。しかし、現在に至るまで、機能性表示食品の広告が優良誤認表示と認定される事件はたびたび発生している。

機能性表示食品の場合、届け出た範囲内で有効性をうたうことができる。一方、それを逸脱すると、景表法で禁止する優良誤認表示に該当する恐れが出てくる。特に、同市場に新規参入した販売会社では、ミスが生じやすいと考えられる。このため、届け出た表示内容と照らし合わせながら、慎重に広告を作成することが必要となる。

(了)

【文責・木村祐作(堤半蔵門法律事務所顧問) 監修・堤世浩(堤半蔵門法律事務所代表弁護士)】