特定商取引法と通信販売 通販事業者が押さえたいポイント(前編)
通信販売を行う事業者にとって、特定商取引法(特商法)は十分に理解しておきたい法律である。特商法は7つの取引類型を対象に規制を設けている。そのうちの1つに「通信販売」がある。通信販売については近年、定期購入契約をめぐる消費者トラブルが多発しているが、消費者に誤認を与える広告によってトラブルを起こすと、特商法違反に問われる恐れがある。通信販売を行う事業者が押さえておきたい特商法の基礎について見ていく。
特商法とは?
特商法の前身は、1976年に制定された訪問販売法。2000年に「特定商取引に関する法律」(特商法)に名称が変更された。
特商法は、事業者による悪質な勧誘行為を防止し、消費者利益を守ることを目的とする。特に消費者トラブルが多い取引類型を対象としている。
訪問販売法が制定された当時は、「訪問販売」「通信販売」「連鎖販売取引」の3つが対象だったが、現在は7つの取引類型を規制。前述の3つのほか、「電話勧誘販売」「特定継続的役務提供」「業務提供誘引販売取引」「訪問購入」が追加されている。
特商法の対象となる通信販売とは、広告を見た消費者が電話・インターネット・FAXなどによって契約を申し込むことで、商品を販売したり、サービスを提供したりする取引を指す。広告には、新聞・雑誌・テレビ、インターネット上の広告をはじめ、チラシやダイレクトメールなども含まれる。
事業者が守るべきルールの「行政規制」
特商法は事業者が守るべきルールと、消費者を守るためのルールを設けている。
事業者に対しては、不適切な勧誘や取引を取り締まるための「行政規制」を規定。これに違反した事業者には、業務改善を指導する「指示」、行政処分である「業務停止命令」や「業務禁止命令」が適用される。これらの命令に違反すると、最大で3年以下の懲役または300万円以下の罰金、それらの併科の対象となる(法人には最大で3億円以下の罰金)。
行政処分を受けると、事業者名や違反内容が公表される。「業務停止命令」は法人に適用され、最長2年間の業務停止を科すことができる。「業務禁止命令」は個人に適用される。これは、業務停止を命じられた後、違法行為の首謀者が別会社を立ち上げて、同様の行為を繰り返すことを防止するための措置だ。
国が2023年9月~24年4月に行った特商法に基づく行政処分は3件、行政指導は6件を数えた。このほか、23年度には1552件の注意喚起も行った。
消費者を守るための「民事ルール」
消費者に対しては、消費者利益を保護する観点から、取引上のトラブルを防止したり、解決したりするための「民事ルール」を設けている。
民事ルールには、クーリング・オフ、契約の意思表示の取り消し、事業者が請求する損害賠償額の制限などがある。
クーリング・オフとは、契約の申し込みや締結の後に、書面を受け取ってから一定の期間内に“無条件”で解約できる権利。消費者が行使できる期間は、訪問販売・電話勧誘販売・特定継続的役務提供・訪問購入が8日以内、連鎖販売取引・業務提供誘引販売取引が20日以内となる。
これらの取引は突然勧誘が始まることから、消費者にとってはその場で冷静に判断できないケースが多い。このため、契約後に商品・サービスが本当に必要かどうかを熟考する機会を与えている。
一方、通信販売にはクーリング・オフがない。通信販売の場合、消費者は広告を見てから申し込むことになり、十分に時間をかけて申し込むかどうかを考えることが可能だからだ。このため、通信販売については特商法で詳細な広告規制が定められている。
(つづく)
【文責・木村祐作(堤半蔵門法律事務所顧問) 監修・堤世浩(堤半蔵門法律事務所代表弁護士)】