広告表現ルール入門(景品表示法・健康増進法 中編)
「著しく」のレベル感
景品表示法が禁止する「優良誤認表示」「有利誤認表示」はともに、「著しく」優良であったり、「著しく」有利であったりした場合に該当する。
広告である以上、どの企業であってもある程度、自社商品が優れていると誇張することは、多くの消費者も理解しているはず。しかし、「著しく」に該当するほどのオーバーな表現になると、景表法に抵触する恐れがある。
実は、この「著しく」については明確な線引きがない。これまでの取り締まり状況からすると、実際には表示のような効果・性能がないと知っていれば購入しなかったと思われる場合が、「著しく」のレベル感であるとみられる。
健康食品の取り締まりで最も多いのが、痩身効果をうたった広告。「2カ月で8㎏減少」などと宣伝していたが、実際には運動や食事制限を行ってわずか数百gの減少だったというものだ。実際の効果を知っていれば、購入しなかった人も多いのではないだろうか。
効果の立証責任は誰が負う?
効果や性能の表現が問題となる場合、景表法の取り締まりでは一般的に、その立証責任は事業者が負う。
健康食品の大げさな効果を取り締まる際には、景表法第7条2項の「不実証広告規制」が用いられる。
不実証広告規制とは、商品・サービスの効果や性能について、事業者に対し、原則15日以内に、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めるという手続き。
事業者が資料を提出しない場合や、提出された資料が合理的な根拠と認められない場合には、消費者庁が立証するまでもなく、景表法で禁止する優良誤認表示とみなされる。
提出資料が合理的な根拠であると認められるためには、(1)客観的に実証された内容であること、(2)表示された効果と提出資料で実証された内容が適切に対応していること――の2要件を満たさなければならない。
(1)の「客観的に実証された内容」とは、学術界または産業界で一般的に認められた方法で実施された試験の結果や、専門家が客観的に評価した見解で一般的に認められているものなどを指す。
(2)の「実証された内容が適切に対応」とは、表示内容と提出資料の内容に齟齬がないことを指す。
例えば、提出資料では「毎日8,000歩の運動と食事制限」を条件にサプリメント摂取によって3カ月で1㎏程度のダイエットが可能としているのにもかかわらず、「サプリメントを摂取するだけでやせる」と宣伝すると、適切に対応していないことになる。
違反すると行政処分が待ち受ける
表示内容が優良誤認表示や有利誤認表示に該当すると判断されると、消費者庁や都道府県は行政処分の「措置命令」を出す。
措置命令は、(1)違反行為の差し止め、(2)再発防止策の構築、(3)一般消費者への違反事実の周知、(4)同様の違反行為を行わないこと――という内容。
措置命令とともに、消費者庁は課徴金の調査も行い、一定の売上高がある場合には「課徴金納付命令」を出す。課徴金納付命令については、都道府県には権限がなく、消費者庁のみが実施できる。
課徴金額はざっくり言えば、違法表示による売上額に3%を乗じて算出される。健康食品の販売でも、億単位の課徴金が科せられるケースもある。
また、命令に違反すると、2年以下の懲役または300万円以下の罰金(法人は3億円以下の罰金)が科せられる。
健康増進法は「誇大表示の禁止」を規定
健康食品の広告・表示は、健康増進法によっても規制を受ける。健康増進法は「誇大表示の禁止」で、「何人も、食品として販売に供する物の広告・表示を行う場合、健康保持増進効果等について著しく事実に相違する表示、また著しく人を誤認させるような表示をしてはならない」と定めている。
「著しく事実に相違する表示」とは、表示された効果と実際の効果が異なるケースを指す。例えば、科学的な試験を行わず、「1カ月で〇㎏やせることを実証」と表示する場合などがこれに該当する。
「著しく人を誤認させる表示」とは、消費者が受ける効果の印象と、実際に相違があるケースを指す。例えば、効果が得られる量の成分を含んでいないにもかかわらず、「体重が減少」「肌の潤いをサポート」などと表示する場合が該当する。
また、健康増進法について押さえておきたいポイントとして、医薬品医療機器等法(薬機法)と同様に、「何人も」を規制対象としていることがある。販売会社だけでなく、新聞社や雑誌社といったメディア、広告代理店、アフィリエイターなどにも規制の網がかかる。この点は景表法と大きく異なる。
健康増進法は行政指導がメイン
健康増進法による健康食品の広告・表示の取り締まりは、そのほとんどが「行政指導」となっている。行政指導の場合、企業名や商品名は公表されない。
消費者庁では定期的に健康食品のインターネット広告を対象に、ロボット検索を活用した一斉監視を実施している。その際、健康増進法に基づいて100社を超える事業者に対し、表示を改善するよう行政指導する。
ただし、消費者からの苦情が多い、診療機会を逃す恐れがあるといったケースでは、「勧告」を出すことができる。この場合、企業名・商品名や不適切な表示内容が公表される。
勧告に従わない事業者には「命令」を出す。命令に違反すると、6カ月以下の懲役または100万円以下の罰金を科す。都道府県も勧告・命令を出すことができる。
(つづく)
【文責・木村祐作(堤半蔵門法律事務所顧問) 監修・堤世浩(堤半蔵門法律事務所代表弁護士)】